斜陽の窓辺

多くの人の目に触れると都合の悪い人生。

3年生-2

今思うと、あのギョウ虫検査が二つ目のターニングポイントとなった気がする。

が、それに気付くのは35年ほど経ってからだ。

(一つ目はまた別の機会に…)

兎にも角にも、私はまだ無邪気さを残していた。


家から学校までは徒歩30分くらいだったように思う。

指定の通学路は学校と反対方向の舗装された坂道を登って行く。

私はすぐ裏にそびえ立つ崖を登って行った。

人が一人やっと通れるようなケモノ道の崖で、こちらを通ると1時間くらい短縮できた気分になるからだ。

実際は5分程度だろう。


この崖には命の恩人(?)が眠っている。

夏の暑い日に崖を下りて行く途中、特大のアオダイショウと鉢合わせをしてしまった。

私はその場で固まって立ったまま死んだふりをした。

言うまでもなくアホ丸出し。

瞑った目を蛇に気付かれないように薄っすら開けて見ると、鎌首もたげて微動だにせず照準を合わせグッとこちらを睨んでいる。

しかし、死んだふりにも限界がある。

頬を流れる汗がむず痒くて動きたくてたまらない。

炎天下の中、永遠とも言える長い時間が流れていったその時、なんとトカゲが目の前を走って横切ったのである。

向かって右側は何も無い絶壁。

左から走り出して来たトカゲは、そこから両脚を広げてダイブしたのだ。

その動きに、たまらずアオダイショウも絶壁からダイブ。

あの光景は今でも鮮明に覚えている。

一匹の小さなトカゲのおかげで命拾いをしたのだ。

私の運はこの時30%くらいは使ってしまったのかも知れない。


まだ、生き延びたことに喜びを感じられる無邪気な小学生だった。