〜6年生-1
学校には農家の子供も何人かいて、その子たちはとてつもなく広い家に住んでいた。
いつだったか、その農家の家の広間で学年の学芸会のようなものが開かれた。
私のグループでは演劇を披露することになった。
役柄は主人公と普通の役と嫌われ役が用意されていた。
現実でも演技でも嫌われるのは地獄だ。
嫌われ役は嫌だと意思表示をしたのだだろうか、私以外の子が嫌われ役の配役で決まった。
しかし出来上がった台本を確認すると、書き変えられていた。
私は口裂け女の役になっており、避けた口をあしらったメイクをされた。
その強烈にインパクトのある口裂けメイクを出番まで隠すために、二つ穴の空いた目出しの紙袋を顔に被せられた。
その穴から外の世界をジッと見ることになった。
松本大洋著「GO GO モンスター」のあの男の子のように。
虚しい虚しい虚しい虚しい。
でも、虚しい悲しいと言ったら楽になるだろうか。
それでも言葉にして叫んでしまったら何かに負ける気がした。
そしてもっと状況が悪くなる気がしていた。
暑い夏の日で扇風機の回る音とザワザワとしたみんなの話し声。
「自分がこの役が良いって選んだんだから仕方ないよね」と薄ら笑うクラスメイトを前に必死で平気なフリをした。
辛い辛い地獄の毎日。
それでも一人で昼も夜も働く母に心配はかけたくなかった。
母と顔を合わせることは滅多に無く、虐められていることは気付かれずに過ごすことができていた。
それを必死で守った。
私には「学校に行きたくない」なんて言葉を口が裂けても言うことができなかった。
口裂け女だけど。
そして私は地獄の皆勤賞。